フォアグラ地獄
はじめまして。私、土船澄(どぶね すみ)と申す者です。
私は面白半分でとある嘘をつきました。
その嘘はだんだんと大きくなっていき、数ヶ月後には取り返しのつかないものになってしまいました。
ああ私は愚かです。地球の恥です。
今回は、私の身に起こったことの全てを過去のブログとともにここに記し、私の愚行を振り返るとともに今後これを読む皆様が同じ目に遭うことのないよう注意喚起の役割になればと思っています。
ちなみに私のついた嘘とは、「フォアグラが大好きである」というものです。
捏造エッセイ
事の発端は私が面白半分でとあるエッセイコンテストに応募した事から始まりました。
その時のブログがこちらです。
私はフォアグラを好きでもなければ食べたこともないのにも関わらず興味本位と図書カード欲しさでエッセイを捏造してコンテストに応募しました。本当に軽い気持ちでした。
一応応募したエッセイの冒頭約300字を載せておきますが(全文を載せると1000字以上になってしまうので)、ウソだしつまらないしイタいしキツいので読み飛ばして下さっても一向に構いません。
フォアグラと私
私はフォアグラが大好きだ。フォアグラの為に生きている。死ぬ時だって自分の墓石にフォアグラへの愛を刻むつもりだ。それくらいに私はフォアグラが大好きなのだ。
私は毎日フォアグラを食べている。この前、医者に「このままフォアグラばかり食べていたら栄養が偏って死にますよ」と忠告を受けた。ああ、なんとすばらしいことではないか。私はフォアグラの為に死のうとしているのだ。フォアグラの為にこの生涯を捧げようとしているのだ。これは私の本望ではないか。
私がフォアグラを好きであるのには理由がある。第一は味だ。当たり前のことではあるがフォアグラは美味い。これほど美味いものが他に存在し得るだろうか。いや、しないだろう。…
今振り返ってみても本当に恥ずかしいです。穴があったら入りたい。
そしてそれから約3ヶ月後、コンテストの結果が発表されました。
なんと私はあの捏造エッセイで本当に佳作を取ってしまったのです!
馬鹿な私は賞状と図書カード円分が送られてきた時、ラッキー!とか思いながら調子をこいていました。
これから悪夢が始まるとも知らないで。
対談
佳作をとってから2ヶ月程が経つと、私はエッセイと貴族協会の事をほとんど忘れていました。
そんな時、一本の電話がかかってきたのです。
あの嘘エッセイがなぜか貴族協会内で評判になったらしく、よりによって私は日本支部長と対談をすることになってしまったのです。
フォアグラの味さえも知らない私にその道に詳しいであろう支部長とのトークができるはずがありません。
それなのに愚かな私はウィキペディアで調べて得た知識だけで対談をなんとかやり過ごそうと考えていたのでした。
そして約1ヶ月後、ついに対談当日はやって来てしまいました。
あの対談は今思い出しただけでもゾッとします。支部長はヤバい人だったし、私は2回も地雷を踏みかけたし、もうさんざんでした。
それでも私はこの対談が終わったら貴族協会というヤバい組織ともきっと縁を断つことができるからそれまでは何とか持ち堪えよう!と思っていました。
しかし、そのようにはなりませんでした。
ほんとうの悪夢はここからだったのです。
悪夢
それは対談からおよそ2ヶ月後の事でした。
再び貴族協会から電話がかかってきたのです。
もしもし、貴族協会のカシワギですが。
カシワギさん!? また私に何か用事があるのでしょうか…
はい。土船さん、とんでもないことになりましたよ。
とんでもないこと!?!?
いやあ、本当にすごいことになってしまいましたよ。
なんせフランスのビュルル本部長が土船さんを1月15日に開催する貴族集会にご招待するというのですからね!
えっ!? 貴族集会!?!?
年に一度、貴族協会の中でもお偉い方々が世界中から集うビッグイベントですよ!
なんでそんな集会に私が…?
土船さん、田中支部長との対談、私も録画で見ましたよ。これが好評で、貴族協会中で話題となりビュルル本部長のお耳にも入ったんです。そしたら本部長がぜひ会ってみたいと仰ったようで。
なんで!? 好評になる要素一つも無くないですか!?
ということで土船さんには今年度の貴族集会に出席して頂きます。土船さんにお願いしたい事は後日メールにて通知させて頂きますね〜
え、ちょっと待って下さい!!
あっ、あと今回の開催国はたまたま日本なので土船さんが海外に渡航するなんて必要もないですし当日は我々が土船さんの自宅までお迎えの車を手配しますのでご安心下さい。それでは!
ちょっと!
ガチャッ プーーップーーップーーッ……
あの電話が切られた時の気持ちは絶望としか言い様がありません。
こうして私はほぼ強制的に貴族集会とやらに参加させられる事になってしまったのです。
私は嘘のエッセイを書いただけなのに……
電話の翌日には貴族協会からメールが送られてきました。
フォアグラの魅力についての
プレゼンテーション(2時間)!?!?
無茶振りにも程があります。
(というか貴族協会もなぜここまで私がただの嘘つきであることに気づかない!)
このメールを見てからしばらくの間、私は絶望と極度の焦燥とで何もできなくなってしまっていました。
文字を打つことすらままならず、その時に書いたブログは解読不可能なほど悲惨なことになっています。
酷い有様ですね。
貴族集会が行われるのは1月15日。
しかし私は何もできないまま、日々だけが過ぎていきました。
そして私は何の準備もしないまま貴族集会当日を迎えてしまったのです。
当日の朝、私は家の中でブルブル震えていました。
午前7時頃になると家の前に黒い車が止まり、中から黒スーツに黒サングラス姿をした貴族協会の職員3人組が出てきて、インターホンを何度も鳴らしました。
恐る恐る玄関から出るや否や私はその3人組に手を引かれ、車に乗せられてしまいました。
はたから見たらスパイ集団に連行されているようにしか見えません。
(なんで3人も出てくる必要があるのか、なんでわざわざいかにも怪しく見えるような格好をしていたのかは未だに謎です)
1時間ほど車は走行し、私が案内されたのはとてつもなく大きなホールでした。
既に会場にはそこそこ人がいて、中には外国の方もいました。それらの人々は皆貴族集会というのに相応しい感じで着飾っており、庶民感丸出しの私は1人でかなり浮いていたと思います。
ステージに割と近い位置の席に座らせられると、貴族集会というものが本当に始まってしまうことを私はいよいよ実感し、何の準備もしていない自分が今置かれている状況のマズさにガクガクと震えが止まらなくなってしまいました。
そしてそれから間も無くオーケストラのような音楽が鳴り響き
「それでは、貴族集会の始まりです!」
と司会者が馬鹿でかい声で叫ぶと、貴族集会はついに始まってしまいました。
貴族集会
「各国の支部長、入場!」と司会者が最初に言うと、
「〇〇国支部長、〇〇様」といったアナウンスが流れ、ステージの中央付近にいくつかの丸い穴が現れ、その中からせり上がるようにして各国の支部長が登場しました。
こんな感じです。
こうして各国の支部長が次々と登場して紹介されていったのですが、
田中米太郎支部長の時だけせり上がる装置がブッ壊れてしまっていたみたいで、
装置の上昇が止まらず、天井をブチ壊してそのまま上の階へひとり消えていきました。
しかし司会者はそんな事はどうでもよいというふうに素知らぬ顔で次々とプログラムを進行していきました(どうでもよくは無いだろ!)。
ビュルル本部長が登場して演説をしたり、よく分からない人達が登場してよく分からない歌を歌ったりしていました。
そうして4つほどのプログラムが終了すると、司会者が
「つづいて、フォアグラの魅力についてのプレゼンテーション 土船澄様」
と言いました。
ついに私の出番が回ってきてしまったのです。
その言葉を聞いた瞬間、私は全身の血の気が引いていくのを感じました。
あまりの緊張と恐怖にふらつきながらステージまで向かった時は、まるで断頭台に上がるような気分だったのを覚えています。
ステージの指定された位置に立つと、出席者たち、各国の支部長、ビュルル本部長と、会場にいる全員が私を見ていました。
奥の方にはテレビ局の人が使っているような随分立派なカメラを構える人の姿も見えます。
もう逃げたくても逃げられる状況ではありません。
私が暫く黙りこんでしまうと、会場の人達はよりいっそう私をじっと見つめました。
しかしプレゼンテーションというのにスライドはおろか原稿さえ用意していない私は黙りこんでいる事しかできません。
しかもそれから1分くらい経過した時に、司会者が「大丈夫ですか?」と聞いてきたのですが、大丈夫な訳が無いのに私は咄嗟に「大丈夫です」と言ってしまいました。
何かしら話さないとまずいと感じた私は一か八か即興で口から出まかせを言ってみる事にしたのですが、そんな事が上手くいくはずもなく、
えっと、……これから、フォアグラの魅力について、プレゼンテーションをさせていただきます、土船澄と申します…
まず、フォアグラは、非常に美味しいです。……本当に美味しいです。とにかく美味しいし、えっと………香りも良いです…
こんな感じに、準備していないのがバレバレの激ヤバな感じになってしまい、観衆たちが私を見る眼差しが「どうしたのかな?」から「何だよコイツ!」に段々と変化していきました。
この絶体絶命の状況にもう私は泣きそうになっていました。
そしてどうしようもなくなってしまった私は、この期に及んでついに
本当の事を全て話して謝り、逃げることにしたのです。
本当にごめんなさい!
私何も準備して来ていないんです。全部嘘だったんです!
フォアグラが好きということも全て嘘です。私、フォアグラを食べたことも無いんです。それなのに面白半分でエッセイコンテストにデタラメを書いて応募して、その後もずっと嘘を押し通そうとしました。
私は本当に馬鹿でした。本当に申し訳ございません!
すると私が言い終えるまでも無く、会場はどよめき「どういうことだ!」という怒号も聞こえてきました。
その場にいるのが耐えきれなくなってしまった私は「ごめんなさい!ごめんなさい!」と頭を下げ、そしてステージから降りて出口まで走り、そのまま会場外まで逃亡しようとしました。
その時、後ろから声が聞こえました。
「土船さん!全て嘘とはどういうことかね!!」
振り向くと、そこに立っていたのは頭に包帯を巻いた、鬼の形相の田中米太郎支部長でした。
「どういうことなのかね!!
佳作の賞金、図書カード千円分、返してもらおうかね!!」
「そこ!?」とは思いながらも私は慌てて財布から千円札を取り出して支部長に向かって投げ、そのまま会場から走って逃げました。
そして暫く走ると近くに駅を見つけ、電車に乗って私はなんとか無事に家に帰る事ができました。
現在
あの貴族集会から早くも2ヶ月。
貴族協会から何か連絡が来るのではないかとビクビクして過ごしていましたが、今のところは何も来ていません。
図書カードの1000円分を返した事で私は許されることができたという事なのでしょうか。
もっと根本的なことで怒られると思ったのですが。
以上が私がした体験の全てです。
最後まで私の話につきあっていただきありがとうございました。
私は本当に愚かでした。単なる興味本位のために、そして図書カードたったの1000円分のために、あんな嘘をついて変な組織に首を突っ込んで。
この記事を読んで下さった皆様には私のような事にはならないで欲しいです。
くれぐれも、
よく分からない組織には興味本意で関わらないようにしましょう。
よく分からないコンテストには応募しないようにしましょう。
嘘はつかないようにしましょう。
それではさようなら。
(完)