【嘘ドキュメンタリー】社長・五木武利#2「偉人編」
私は五木武利(いつきたけとし)、50歳。
ついに自分の会社を立ち上げることに成功し社長となった。社員は今のところ私と城有君の二人しかいないが、これから拡大していく予定だ。
私は今まで実に数々の苦難を経験し、乗り越えてきた。何度も泣き、のし上がってきた。雨に打たれ、風に吹かれ、雷に打たれ、ゴミ箱にぶち込まれてきた。スピード違反で警察に捕まったこともあった(それはお前が悪いだろ)。実に波乱万丈な人生であると言えるであろう。
前回の話↓
#2
私は遂に(株)プリンアラモードの社長になった。私はこの小さな会社の創業者なのだ。欲を言ってしまえば、この会社を名だたる大企業に拡大し、(別にこれは私の代でとかでなく未来の者達が勝手に頑張って拡大してくれればいいっちゃいい)そして私はこの会社の偉大なる創業者として崇め奉られたいものである。「偉大なる創業者」に必要なもの…それは何だろうか。何か形として残るもの…像だ!そうだ。会社の庭に私の銅像を建てよう。これで後世にも私の名を知らしめられること間違いなしであろう。
そう思い立った翌日、私は早速金属加工業者に連絡を取り、私の銅像を注文することにした。しかし銅像は高価なものであった。今の私の予算では全身像はおそらく無理であろう。
「このくらいの値段でできるものでお願いします」
私は金属加工業者の社員に予算を伝えた。
「なるほど…。この予算ですと、上半身が限界ですかね…。いや、それもどうだろう…
ま、やれるだけやってみます。設置場所は会社のお庭ですね。よし、完成の日を楽しみにしていて下さい」
社員はそう言った。
上半身…胸像だろうか。まあ、それはそれで良いだろう。
私は完成の日を楽しみに待った。そして注文からおよそ1か月後、業者から電話が掛かってきたのである。
「五木社長の銅像が完成いたしましたので明日お庭に設置させていただきます」
ついに私の銅像が!ついに私は偉人への第一歩を踏み出すのだ。
期待に胸が高鳴る。
そして翌日、業者がやってきて設置の作業に取り掛かった。1時間ほど掛かっていただろうか。私は像を見る事ができるのが待ち遠しかった。そしてついにお披露目の時はやって来た。
「五木社長、設置が完了いたしました!こちらへどうぞ!」
ついに私の銅像との初対面。
…しかし、その銅像は私が脳内にイメージしていたものとはだいぶ違っていた。
私としてはそこそこ立派な台座に乗っている胸像を想像していたのだが、そのようなものはどこにも見当たらない。
「あれ、どこに設置したのですか?」
本当に見当たらないのだ。
「これですよ、これ」
すると、業者の社員は地面の方を指さした。私は下を向いた。
…するとそこにはたしかに私の銅像があった。しかし台座も何もない。
首から上だけが、地面から生えている。まるでキノコのように。果たしてこのような偉人の銅像が存在するだろうか。いや、しないであろう。
「こ、これは。何ですか?」
「いやあ、やはり予算的にこれが限界でしたね」
「台座とかって…?」
「台座も無理でしたね」
「そうですか…」
「はい」
暫くの沈黙が流れた後、業者は「次の仕事があるので失礼します」と言って帰っていった。
私は放心状態で、地面から生えた自分の茶色い生首をただボーっと見つめていた。
気が付いたらもう日が暮れかけていた。
夕日に照らされた私の生首がオレンジ色に光っていた。
(完)