おじさんクラッシャー

もしもどこにでも住めるのだとしたら、私は幼い頃に住んでいたあの頃の団地にもう一度、一日だけでもいいから住みたいと思います。

団地には友達がたくさんいて、近くに公園もあって、毎日5時のチャイムが流れるまで遊ぶのが日課でした。山を切り開いた土地に造られた団地だったため、周りには自然も多くて虫取りもすることができ、子供たちにとっては楽園のような土地だったと思います。
団地には私の幼少期の思い出がつまっています。友達とツツジの甘い蜜を吸ったり、鬼ごっこをしたり、泥でおままごとをしたり。
団地の下に大量に落ちている洗濯ばさみを集めたのも、熱が出て友達と遊ぶことを許されなかった日にわざとベランダからおもちゃを落として、「拾いに行く」と言って友達に会いに行こうとしたのも今となってはいい思い出です。
そして小学校低学年の頃、私はその団地から一軒家へ引っ越しをしました。寂しかったことは言うまでもありません。

あれから早15年。もうその団地はありません。過疎化により団地に住む人はどんどん減っていき、ついに取り壊しが決まってしまったのでした。あの頃一緒にに遊んだ友達も、みんな居なくなってしまいました。今どこで何をしているのか、もう知る術もありません。
もしももう一度行くことが出来るのならば、私は取り壊されてしまった私の家族が住んでいた部屋に行って、幼い頃にあそんだ今はもう無い公園とかにも行って、あの頃の思い出を噛みしめたいのです。

ーふーん、なるほど。それでは行ってらっしゃい。あの頃の、あの場所へ。それでは目を閉じてね。

私が一通り「もう一度住みたい場所」についての話をし終えると、時空超越おじさんはそう言って私の額に手をかざした。するとだんだん頭の中がぼんやりとしてきて、夢を見ているかのような感覚になった。その夢のような感覚の中でかすかに時空超越おじさんの声が聞こえた。「あ、しくじった」とかなんとか。え、しくじったって何?ちゃんと私は行きたいところへ飛ばしてもらえるの?とか思っているうちに私は意識を失っていた。

目をあけるとそこは懐かしの団地…では無かった。そこは行ったことも見たこともないような遊園地だった。入口付近には「おじさんランド♡☆」と書かれた大きなアーチがあった。完全に飛ばされる場所を間違えられてしまったようだった。
「おじさんランド」なんて遊園地、聞いたこともない。私は不審に思いながらも、入口に近づいて行った。
「入場料はマイナス4000円だよ。買っていきな」
チケット売り場のおじさんがこちらをみて微笑みながら言う。
「マイナス4000円ってどういう事ですか?4000円もらえるんですか?」
「ああ、そうだよ」
入場するのにお金はかからず逆に4000円ももらえてしまうというのだ。なんてお得なのだろう。私は迷わず「おじさんランド」に入場した。

ゲートの奥で最初に私を出迎えたのはおじさんランドのマスコットキャラクター、「おじさんくん」と「おじさんちゃん」だった。記念撮影を終えると、大量のおじさん風船を手に持った風船おじさんが「ひとつ持っていくかい?マイナス500円だよ」と声をかけてきた。驚いたことに、風船おじさんはチケット売り場のおじさんと顔が全く同じだった。私はそのおじさんから風船を1つ購入し、風船の紐を背負っていたリュックの持ち手の部分に括り付けた。
私以外の客は全員おじさんで、やはり顔もみな同じだった。入口近くの売店には、大量のおじさんグッズが売っていた。私はその中から、おじさんランド内にある、おじさんスタンドにセットすると光っておじさんポイントがたまり、おじさんポイントを3つためると黄金のおじさんがもらえるという、「光るおじさんステッキ」を購入した。マイナス3000円だった。

売店を出ると、私はおじさん屋敷というアトラクションに入った。屋敷内にただ大量のおじさんがうろついているだけで、つまらなかった。次に私はおじさんゴーラウンドに乗った。おじさんカップにも乗った。そして私はおじさんコースターに乗ったのだが、これが速い速い。光速か!と叫んでしまいたくなるほどに速いのである。そしてなかなか終わらない。もう何周もぐるぐるしているのだ。すると突然、前方のレールが消えたと共に、目の前に巨大な扉が現れた。私とおじさん客を乗せたコースターはそのまま扉の中に突っ込んでいった。

どれほどの時間気を失っていただろうか。
そっと目をあけると、私はベッドの上に横たわっていた。起き上がって周りの景色を見てみるものの、全く見覚えのない部屋だった。部屋のドアをあけて隣の部屋に入ると、そこはダイニングらしかった。大きなテーブルの上にはケーキがおかれている。そしてそのケーキを取り囲むようにして座る6人の男性ーそれはあのおじさん達であった。
1人のおじさんが私を見るなり「ああ、やっと起きたか。待っていたよ」と言った。
私が戸惑っていると、おじさん達が一斉に歌い出した。
「ハッピーバースデートゥーユー ハッピバースデートゥーユー」
おじさん達は全員オンチで、絶妙に気持ち悪いハーモニーを奏でていた。


この文章を読んでいただき、ありがとうございました。
私、おじさんクラッシャーでございます。
エモい文章や美しい文章に明らかに余計な展開をプラスすることで忽ち駄文を作り上げてしまう、そんな害悪なおじさんなのでございます。
今回はおじさんランドを登場させてみました。私、遊園地が好きでしてね。
あなたの前にもいつおじさんランドが開園するか分かりませんよ。
おじさんクラッシャーはあなたのすぐそばにいるかもしれませんよ。

それでは、ごきげんよう