平安日記#6〈藤原道喪古(ふじわらのみちもこ)記〉

前回の道喪古記↓

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いついつの日にかありけるにや、除目(※1)ありとて、道喪古、いずこの土地を任せられむにやと意気込みけり。かの国が良し、かの国には行きたくもなしなどと思ひつつ、遠き任地のまだ見ぬをとめに思いよせ、よなよなひとりわらひけることかぎりなし。

除目の日になりて、道喪古、いとけさうじて、おもひびとの逢ふ瀬をまちわぶるをとめがごときまなこにて除目官を待ちけるに、待てど待てど来ず。道に迷ひけるにか、向かひに行かむ、とて道喪古自ら除目官のもとへ向かひて「わが任地はいずこにあるか。とくとく教へ給へ」と聞きければ、「そちに役職はあらず」と言はれけり。

「あなや」と道喪古の鳴き声響きわたりけることかぎりなし。

道喪古、つひに無職になりてけるよ。

 

※1:平安時代における地方官などの役職の任命式。