平安日記#5〈藤原道喪古(ふじわらもみちもこ)記〉

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#5

いついつの日にかありけるにや、道喪古、蛇兄徒(じゃにいず)になりたきこと限りなしとて、履歴書に年二十、身の丈六尺、優なる面にて、学問にも優るれば大学の試験では満点以外とりける事はなし、とひがごと書きて送りけり。本当は年三十五、身の丈五尺、大学には落ちてける身の上なり。

「結果はいかに、いかに」とて夜も眠れぬに、つひに書類審査の結果の文届きけり。

結果を待ちわびしものの、実際に届きてみれば、封を開くのは怖し、とてしりごみしければ、道喪古がおとうと鞭丸、「とく、とく結果を見せ給へ」とてせかしければ、つひに開封しけり。

文には合格とあり。あな道喪古ひがごと書きて最終選考に残りてけるよ。

 

二月つごもり頃、蛇兄徒の最終選考なる面接ありけり。「藤原道喪古殿、入り給へ」と声が聞こえければ、道喪古、わななくわななく部屋に入りて席に座りけり。

面接官なる人、道喪古を一目見て、「汝は真に道喪古殿なる人か。書類に書きてある事と違ふこと限りなし。異人にこそあらめ。」とあさましう笑ひけること限りなし。

されど、「書類と異なりて丈も短く平凡なる見た目なるは残念にはあれど、蛇兄徒の要なるは舞と歌なり。舞と歌も一応見てみむとぞ思ふ。道喪古殿、歌ひつつ舞ひ給へ。」

と言ひければ、道喪古、さはれとて、きいきいといと汚き声にて「舞へ舞へかたつぶり舞はぬものならば牛の糞と馬の糞と遊ばせん」

とうろ覚えの今様を異なる歌詞にて歌ひければ、面接官笑ふこと限りなし。

道喪古、それを見て、笑ひけるといふことは好評なりといふ事か、と期待しけれど、

「不合格なり。帰り給へ。帰り給へ。とくとく」

と言はれてけり。

あなや、と道喪古の叫び声ばかりぞ響きわたりける。

かたはらいたき道喪古見ればわが身さへこそ恥ずかしけれ。