おじさんクラッシャー
もしもどこにでも住めるのだとしたら、私は幼い頃に住んでいたあの頃の団地にもう一度、一日だけでもいいから住みたいと思います。
団地には友達がたくさんいて、近くに公園もあって、毎日5時のチャイムが流れるまで遊ぶのが日課でした。山を切り開いた土地に造られた団地だったため、周りには自然も多くて虫取りもすることができ、子供たちにとっては楽園のような土地だったと思います。
団地には私の幼少期の思い出がつまっています。友達とツツジの甘い蜜を吸ったり、鬼ごっこをしたり、泥でおままごとをしたり。
団地の下に大量に落ちている洗濯ばさみを集めたのも、熱が出て友達と遊ぶことを許されなかった日にわざとベランダからおもちゃを落として、「拾いに行く」と言って友達に会いに行こうとしたのも今となってはいい思い出です。
そして小学校低学年の頃、私はその団地から一軒家へ引っ越しをしました。寂しかったことは言うまでもありません。
あれから早15年。もうその団地はありません。過疎化により団地に住む人はどんどん減っていき、ついに取り壊しが決まってしまったのでした。あの頃一緒にに遊んだ友達も、みんな居なくなってしまいました。今どこで何をしているのか、もう知る術もありません。
もしももう一度行くことが出来るのならば、私は取り壊されてしまった私の家族が住んでいた部屋に行って、幼い頃にあそんだ今はもう無い公園とかにも行って、あの頃の思い出を噛みしめたいのです。
ーふーん、なるほど。それでは行ってらっしゃい。あの頃の、あの場所へ。それでは目を閉じてね。
私が一通り「もう一度住みたい場所」についての話をし終えると、時空超越おじさんはそう言って私の額に手をかざした。するとだんだん頭の中がぼんやりとしてきて、夢を見ているかのような感覚になった。その夢のような感覚の中でかすかに時空超越おじさんの声が聞こえた。「あ、しくじった」とかなんとか。え、しくじったって何?ちゃんと私は行きたいところへ飛ばしてもらえるの?とか思っているうちに私は意識を失っていた。
目をあけるとそこは懐かしの団地…では無かった。そこは行ったことも見たこともないような遊園地だった。入口付近には「おじさんランド♡☆」と書かれた大きなアーチがあった。完全に飛ばされる場所を間違えられてしまったようだった。
「おじさんランド」なんて遊園地、聞いたこともない。私は不審に思いながらも、入口に近づいて行った。
「入場料はマイナス4000円だよ。買っていきな」
チケット売り場のおじさんがこちらをみて微笑みながら言う。
「マイナス4000円ってどういう事ですか?4000円もらえるんですか?」
「ああ、そうだよ」
入場するのにお金はかからず逆に4000円ももらえてしまうというのだ。なんてお得なのだろう。私は迷わず「おじさんランド」に入場した。
ゲートの奥で最初に私を出迎えたのはおじさんランドのマスコットキャラクター、「おじさんくん」と「おじさんちゃん」だった。記念撮影を終えると、大量のおじさん風船を手に持った風船おじさんが「ひとつ持っていくかい?マイナス500円だよ」と声をかけてきた。驚いたことに、風船おじさんはチケット売り場のおじさんと顔が全く同じだった。私はそのおじさんから風船を1つ購入し、風船の紐を背負っていたリュックの持ち手の部分に括り付けた。
私以外の客は全員おじさんで、やはり顔もみな同じだった。入口近くの売店には、大量のおじさんグッズが売っていた。私はその中から、おじさんランド内にある、おじさんスタンドにセットすると光っておじさんポイントがたまり、おじさんポイントを3つためると黄金のおじさんがもらえるという、「光るおじさんステッキ」を購入した。マイナス3000円だった。
売店を出ると、私はおじさん屋敷というアトラクションに入った。屋敷内にただ大量のおじさんがうろついているだけで、つまらなかった。次に私はおじさんゴーラウンドに乗った。おじさんカップにも乗った。そして私はおじさんコースターに乗ったのだが、これが速い速い。光速か!と叫んでしまいたくなるほどに速いのである。そしてなかなか終わらない。もう何周もぐるぐるしているのだ。すると突然、前方のレールが消えたと共に、目の前に巨大な扉が現れた。私とおじさん客を乗せたコースターはそのまま扉の中に突っ込んでいった。
どれほどの時間気を失っていただろうか。
そっと目をあけると、私はベッドの上に横たわっていた。起き上がって周りの景色を見てみるものの、全く見覚えのない部屋だった。部屋のドアをあけて隣の部屋に入ると、そこはダイニングらしかった。大きなテーブルの上にはケーキがおかれている。そしてそのケーキを取り囲むようにして座る6人の男性ーそれはあのおじさん達であった。
1人のおじさんが私を見るなり「ああ、やっと起きたか。待っていたよ」と言った。
私が戸惑っていると、おじさん達が一斉に歌い出した。
「ハッピーバースデートゥーユー ハッピバースデートゥーユー」
おじさん達は全員オンチで、絶妙に気持ち悪いハーモニーを奏でていた。
この文章を読んでいただき、ありがとうございました。
私、おじさんクラッシャーでございます。
エモい文章や美しい文章に明らかに余計な展開をプラスすることで忽ち駄文を作り上げてしまう、そんな害悪なおじさんなのでございます。
今回はおじさんランドを登場させてみました。私、遊園地が好きでしてね。
あなたの前にもいつおじさんランドが開園するか分かりませんよ。
おじさんクラッシャーはあなたのすぐそばにいるかもしれませんよ。
それでは、ごきげんよう。
【嘘ドキュメンタリー】社長・五木武利#2「偉人編」
私は五木武利(いつきたけとし)、50歳。
ついに自分の会社を立ち上げることに成功し社長となった。社員は今のところ私と城有君の二人しかいないが、これから拡大していく予定だ。
私は今まで実に数々の苦難を経験し、乗り越えてきた。何度も泣き、のし上がってきた。雨に打たれ、風に吹かれ、雷に打たれ、ゴミ箱にぶち込まれてきた。スピード違反で警察に捕まったこともあった(それはお前が悪いだろ)。実に波乱万丈な人生であると言えるであろう。
続きを読む【嘘ドキュメンタリー】社長・五木武利#1「社名編」
私は五木武利(いつきたけとし)、50歳。
ついに自分の会社を立ち上げることに成功し社長となった。社員は今のところ私と城有君の二人しかいないが、これから拡大していく予定だ。
私は今まで実に数々の苦難を経験し、乗り越えてきた。何度も泣き、のし上がってきた。雨に打たれ、風に吹かれ、雷に打たれ、ゴミ箱にぶち込まれてきた。スピード違反で警察に捕まったこともあった(それはお前が悪いだろ)。実に波乱万丈な人生であると言えるであろう。
続きを読む平安日記#6〈藤原道喪古(ふじわらのみちもこ)記〉
前回の道喪古記↓
いついつの日にかありけるにや、除目(※1)ありとて、道喪古、いずこの土地を任せられむにやと意気込みけり。かの国が良し、かの国には行きたくもなしなどと思ひつつ、遠き任地のまだ見ぬをとめに思いよせ、よなよなひとりわらひけることかぎりなし。
除目の日になりて、道喪古、いとけさうじて、おもひびとの逢ふ瀬をまちわぶるをとめがごときまなこにて除目官を待ちけるに、待てど待てど来ず。道に迷ひけるにか、向かひに行かむ、とて道喪古自ら除目官のもとへ向かひて「わが任地はいずこにあるか。とくとく教へ給へ」と聞きければ、「そちに役職はあらず」と言はれけり。
「あなや」と道喪古の鳴き声響きわたりけることかぎりなし。
道喪古、つひに無職になりてけるよ。
※1:平安時代における地方官などの役職の任命式。
【平安企画】アリを探そう!(没ネタ)
(スランプにより新たな記事がなかなか仕上がらないため面白くないと思い没にしていた記事を公開します。)
※この記事は、現在人にとっては些細な出来事であってもいちいち感動してしまう世間知らずな平安貴族ブロガーによるレポートを現代語訳したものならどんなに手の抜かれた内容でも面白いのか、という実験的記事です。なので面白くない可能性も十分にありますがご了承下さい。
皆さん、はじめまして!
藤原道喪古(ふじわらのみちもこ)です!!
なんか変な人に連れられて家族もろとも(家ごと)現代にやってきました!!
突然ですが皆さん、アリというものを見たことがありますか?ありませんよね?
私もありません。何せ外に出ることがほとんど無いんですよね。
でも見てみたくないですか?アリ。
というわけで、今回の企画はなんと、「外に出てアリを探してみよう」です!!
できるかな〜!?
といっても私一人でアリを見つけるのは不可能に近いと思うので、弟にも協力してもらって2人がかりで捜索していきたいと思います!
さらに私、今回の為だけに泣きの2万円を払ってカメラまで買ってしまいました!
これは頑張らなければ!!
準備が整ったところで早速アリを探しに行きましょう!
捜索開始!
それではアリを探しましょう!!
〈in近所の公園〉
久しぶりに外に出たなー。
うん。
アリ見つかるかなー。
うん。
見つからない……
……
というかめちゃ寒くなってきてない?
(※撮影時は2月)
……
今日はもう諦めて帰るしかないか……(泣)
うん。
反省
というわけで、今回私は45分かけて探しましたがアリを見つけることはできず、二月の寒さもあって捜索を断念してしまいました。カメラまで買ったのに!
アリが見たかったという方、誠に申し訳ございませんでした。
しかし私はまだ諦めていません。アリというものをこの目で見るという夢を。
いつかリベンジ企画をやりたいと思います!
乞うご期待!
フォアグラ地獄
はじめまして。私、土船澄(どぶね すみ)と申す者です。
私は面白半分でとある嘘をつきました。
その嘘はだんだんと大きくなっていき、数ヶ月後には取り返しのつかないものになってしまいました。
ああ私は愚かです。地球の恥です。
今回は、私の身に起こったことの全てを過去のブログとともにここに記し、私の愚行を振り返るとともに今後これを読む皆様が同じ目に遭うことのないよう注意喚起の役割になればと思っています。
ちなみに私のついた嘘とは、「フォアグラが大好きである」というものです。
捏造エッセイ
事の発端は私が面白半分でとあるエッセイコンテストに応募した事から始まりました。
その時のブログがこちらです。
私はフォアグラを好きでもなければ食べたこともないのにも関わらず興味本位と図書カード欲しさでエッセイを捏造してコンテストに応募しました。本当に軽い気持ちでした。
一応応募したエッセイの冒頭約300字を載せておきますが(全文を載せると1000字以上になってしまうので)、ウソだしつまらないしイタいしキツいので読み飛ばして下さっても一向に構いません。
フォアグラと私
私はフォアグラが大好きだ。フォアグラの為に生きている。死ぬ時だって自分の墓石にフォアグラへの愛を刻むつもりだ。それくらいに私はフォアグラが大好きなのだ。
私は毎日フォアグラを食べている。この前、医者に「このままフォアグラばかり食べていたら栄養が偏って死にますよ」と忠告を受けた。ああ、なんとすばらしいことではないか。私はフォアグラの為に死のうとしているのだ。フォアグラの為にこの生涯を捧げようとしているのだ。これは私の本望ではないか。
私がフォアグラを好きであるのには理由がある。第一は味だ。当たり前のことではあるがフォアグラは美味い。これほど美味いものが他に存在し得るだろうか。いや、しないだろう。…
今振り返ってみても本当に恥ずかしいです。穴があったら入りたい。
そしてそれから約3ヶ月後、コンテストの結果が発表されました。
なんと私はあの捏造エッセイで本当に佳作を取ってしまったのです!
馬鹿な私は賞状と図書カード円分が送られてきた時、ラッキー!とか思いながら調子をこいていました。
これから悪夢が始まるとも知らないで。
対談
佳作をとってから2ヶ月程が経つと、私はエッセイと貴族協会の事をほとんど忘れていました。
そんな時、一本の電話がかかってきたのです。
あの嘘エッセイがなぜか貴族協会内で評判になったらしく、よりによって私は日本支部長と対談をすることになってしまったのです。
フォアグラの味さえも知らない私にその道に詳しいであろう支部長とのトークができるはずがありません。
それなのに愚かな私はウィキペディアで調べて得た知識だけで対談をなんとかやり過ごそうと考えていたのでした。
そして約1ヶ月後、ついに対談当日はやって来てしまいました。
あの対談は今思い出しただけでもゾッとします。支部長はヤバい人だったし、私は2回も地雷を踏みかけたし、もうさんざんでした。
それでも私はこの対談が終わったら貴族協会というヤバい組織ともきっと縁を断つことができるからそれまでは何とか持ち堪えよう!と思っていました。
しかし、そのようにはなりませんでした。
ほんとうの悪夢はここからだったのです。
悪夢
それは対談からおよそ2ヶ月後の事でした。
再び貴族協会から電話がかかってきたのです。
もしもし、貴族協会のカシワギですが。
カシワギさん!? また私に何か用事があるのでしょうか…
はい。土船さん、とんでもないことになりましたよ。
とんでもないこと!?!?
いやあ、本当にすごいことになってしまいましたよ。
なんせフランスのビュルル本部長が土船さんを1月15日に開催する貴族集会にご招待するというのですからね!
えっ!? 貴族集会!?!?
年に一度、貴族協会の中でもお偉い方々が世界中から集うビッグイベントですよ!
なんでそんな集会に私が…?
土船さん、田中支部長との対談、私も録画で見ましたよ。これが好評で、貴族協会中で話題となりビュルル本部長のお耳にも入ったんです。そしたら本部長がぜひ会ってみたいと仰ったようで。
なんで!? 好評になる要素一つも無くないですか!?
ということで土船さんには今年度の貴族集会に出席して頂きます。土船さんにお願いしたい事は後日メールにて通知させて頂きますね〜
え、ちょっと待って下さい!!
あっ、あと今回の開催国はたまたま日本なので土船さんが海外に渡航するなんて必要もないですし当日は我々が土船さんの自宅までお迎えの車を手配しますのでご安心下さい。それでは!
ちょっと!
ガチャッ プーーップーーップーーッ……
あの電話が切られた時の気持ちは絶望としか言い様がありません。
こうして私はほぼ強制的に貴族集会とやらに参加させられる事になってしまったのです。
私は嘘のエッセイを書いただけなのに……
電話の翌日には貴族協会からメールが送られてきました。
フォアグラの魅力についての
プレゼンテーション(2時間)!?!?
無茶振りにも程があります。
(というか貴族協会もなぜここまで私がただの嘘つきであることに気づかない!)
このメールを見てからしばらくの間、私は絶望と極度の焦燥とで何もできなくなってしまっていました。
文字を打つことすらままならず、その時に書いたブログは解読不可能なほど悲惨なことになっています。
酷い有様ですね。
貴族集会が行われるのは1月15日。
しかし私は何もできないまま、日々だけが過ぎていきました。
そして私は何の準備もしないまま貴族集会当日を迎えてしまったのです。
当日の朝、私は家の中でブルブル震えていました。
午前7時頃になると家の前に黒い車が止まり、中から黒スーツに黒サングラス姿をした貴族協会の職員3人組が出てきて、インターホンを何度も鳴らしました。
恐る恐る玄関から出るや否や私はその3人組に手を引かれ、車に乗せられてしまいました。
はたから見たらスパイ集団に連行されているようにしか見えません。
(なんで3人も出てくる必要があるのか、なんでわざわざいかにも怪しく見えるような格好をしていたのかは未だに謎です)
1時間ほど車は走行し、私が案内されたのはとてつもなく大きなホールでした。
既に会場にはそこそこ人がいて、中には外国の方もいました。それらの人々は皆貴族集会というのに相応しい感じで着飾っており、庶民感丸出しの私は1人でかなり浮いていたと思います。
ステージに割と近い位置の席に座らせられると、貴族集会というものが本当に始まってしまうことを私はいよいよ実感し、何の準備もしていない自分が今置かれている状況のマズさにガクガクと震えが止まらなくなってしまいました。
そしてそれから間も無くオーケストラのような音楽が鳴り響き
「それでは、貴族集会の始まりです!」
と司会者が馬鹿でかい声で叫ぶと、貴族集会はついに始まってしまいました。
貴族集会
「各国の支部長、入場!」と司会者が最初に言うと、
「〇〇国支部長、〇〇様」といったアナウンスが流れ、ステージの中央付近にいくつかの丸い穴が現れ、その中からせり上がるようにして各国の支部長が登場しました。
こんな感じです。
こうして各国の支部長が次々と登場して紹介されていったのですが、
田中米太郎支部長の時だけせり上がる装置がブッ壊れてしまっていたみたいで、
装置の上昇が止まらず、天井をブチ壊してそのまま上の階へひとり消えていきました。
しかし司会者はそんな事はどうでもよいというふうに素知らぬ顔で次々とプログラムを進行していきました(どうでもよくは無いだろ!)。
ビュルル本部長が登場して演説をしたり、よく分からない人達が登場してよく分からない歌を歌ったりしていました。
そうして4つほどのプログラムが終了すると、司会者が
「つづいて、フォアグラの魅力についてのプレゼンテーション 土船澄様」
と言いました。
ついに私の出番が回ってきてしまったのです。
その言葉を聞いた瞬間、私は全身の血の気が引いていくのを感じました。
あまりの緊張と恐怖にふらつきながらステージまで向かった時は、まるで断頭台に上がるような気分だったのを覚えています。
ステージの指定された位置に立つと、出席者たち、各国の支部長、ビュルル本部長と、会場にいる全員が私を見ていました。
奥の方にはテレビ局の人が使っているような随分立派なカメラを構える人の姿も見えます。
もう逃げたくても逃げられる状況ではありません。
私が暫く黙りこんでしまうと、会場の人達はよりいっそう私をじっと見つめました。
しかしプレゼンテーションというのにスライドはおろか原稿さえ用意していない私は黙りこんでいる事しかできません。
しかもそれから1分くらい経過した時に、司会者が「大丈夫ですか?」と聞いてきたのですが、大丈夫な訳が無いのに私は咄嗟に「大丈夫です」と言ってしまいました。
何かしら話さないとまずいと感じた私は一か八か即興で口から出まかせを言ってみる事にしたのですが、そんな事が上手くいくはずもなく、
えっと、……これから、フォアグラの魅力について、プレゼンテーションをさせていただきます、土船澄と申します…
まず、フォアグラは、非常に美味しいです。……本当に美味しいです。とにかく美味しいし、えっと………香りも良いです…
こんな感じに、準備していないのがバレバレの激ヤバな感じになってしまい、観衆たちが私を見る眼差しが「どうしたのかな?」から「何だよコイツ!」に段々と変化していきました。
この絶体絶命の状況にもう私は泣きそうになっていました。
そしてどうしようもなくなってしまった私は、この期に及んでついに
本当の事を全て話して謝り、逃げることにしたのです。
本当にごめんなさい!
私何も準備して来ていないんです。全部嘘だったんです!
フォアグラが好きということも全て嘘です。私、フォアグラを食べたことも無いんです。それなのに面白半分でエッセイコンテストにデタラメを書いて応募して、その後もずっと嘘を押し通そうとしました。
私は本当に馬鹿でした。本当に申し訳ございません!
すると私が言い終えるまでも無く、会場はどよめき「どういうことだ!」という怒号も聞こえてきました。
その場にいるのが耐えきれなくなってしまった私は「ごめんなさい!ごめんなさい!」と頭を下げ、そしてステージから降りて出口まで走り、そのまま会場外まで逃亡しようとしました。
その時、後ろから声が聞こえました。
「土船さん!全て嘘とはどういうことかね!!」
振り向くと、そこに立っていたのは頭に包帯を巻いた、鬼の形相の田中米太郎支部長でした。
「どういうことなのかね!!
佳作の賞金、図書カード千円分、返してもらおうかね!!」
「そこ!?」とは思いながらも私は慌てて財布から千円札を取り出して支部長に向かって投げ、そのまま会場から走って逃げました。
そして暫く走ると近くに駅を見つけ、電車に乗って私はなんとか無事に家に帰る事ができました。
現在
あの貴族集会から早くも2ヶ月。
貴族協会から何か連絡が来るのではないかとビクビクして過ごしていましたが、今のところは何も来ていません。
図書カードの1000円分を返した事で私は許されることができたという事なのでしょうか。
もっと根本的なことで怒られると思ったのですが。
以上が私がした体験の全てです。
最後まで私の話につきあっていただきありがとうございました。
私は本当に愚かでした。単なる興味本位のために、そして図書カードたったの1000円分のために、あんな嘘をついて変な組織に首を突っ込んで。
この記事を読んで下さった皆様には私のような事にはならないで欲しいです。
くれぐれも、
よく分からない組織には興味本意で関わらないようにしましょう。
よく分からないコンテストには応募しないようにしましょう。
嘘はつかないようにしましょう。
それではさようなら。
(完)
平安日記#5〈藤原道喪古(ふじわらもみちもこ)記〉
前回の道喪古記↓
#5
いついつの日にかありけるにや、道喪古、蛇兄徒(じゃにいず)になりたきこと限りなしとて、履歴書に年二十、身の丈六尺、優なる面にて、学問にも優るれば大学の試験では満点以外とりける事はなし、とひがごと書きて送りけり。本当は年三十五、身の丈五尺、大学には落ちてける身の上なり。
「結果はいかに、いかに」とて夜も眠れぬに、つひに書類審査の結果の文届きけり。
結果を待ちわびしものの、実際に届きてみれば、封を開くのは怖し、とてしりごみしければ、道喪古がおとうと鞭丸、「とく、とく結果を見せ給へ」とてせかしければ、つひに開封しけり。
文には合格とあり。あな道喪古ひがごと書きて最終選考に残りてけるよ。
二月つごもり頃、蛇兄徒の最終選考なる面接ありけり。「藤原道喪古殿、入り給へ」と声が聞こえければ、道喪古、わななくわななく部屋に入りて席に座りけり。
面接官なる人、道喪古を一目見て、「汝は真に道喪古殿なる人か。書類に書きてある事と違ふこと限りなし。異人にこそあらめ。」とあさましう笑ひけること限りなし。
されど、「書類と異なりて丈も短く平凡なる見た目なるは残念にはあれど、蛇兄徒の要なるは舞と歌なり。舞と歌も一応見てみむとぞ思ふ。道喪古殿、歌ひつつ舞ひ給へ。」
と言ひければ、道喪古、さはれとて、きいきいといと汚き声にて「舞へ舞へかたつぶり舞はぬものならば牛の糞と馬の糞と遊ばせん」
とうろ覚えの今様を異なる歌詞にて歌ひければ、面接官笑ふこと限りなし。
道喪古、それを見て、笑ひけるといふことは好評なりといふ事か、と期待しけれど、
「不合格なり。帰り給へ。帰り給へ。とくとく」
と言はれてけり。
あなや、と道喪古の叫び声ばかりぞ響きわたりける。
【土船澄】どうしよう
どうしましぃうy。やばいです。まさかじょjんんえあことにじなるなんで思わなかたです。わたしっっhじゃうそをつきましや。い)あ、ふれうえる手でこのもいじをうっってま
わたしはjhkべあかですわつあしはばかですくわたしはばかdydjyさうあああああああああああああああああああああrsrgsgrsyrshtdhyfjっhgdjckhgkjgふyf
平安日記#4〈藤原道喪古(ふじわらのみちもこ)記〉
前回の道喪古記↓
virus-levis.hatenablog.jp
#4
九月十日のあかつき、道喪古、庭に出でて空を見るに、光りたる椀めきたるもの、宙に浮きてゐたり。
寄りて見るに、一すぢのかげさして、中から道喪古の、緑なる面したる、出で来けり。
道喪古いとおどろきて、「あなや」と言ひけるに、道喪古が母、出で来て、「何事ぞ」と言ひければ、かくかくと言ふ間も無く、緑なる面したる道喪古、「ここにいる道喪古、異人なり。我がこそ真の道喪古なり」と叫びけり。
さるに、道喪古が母、「こはなぞ。汝は何者ぞ。直ちに出て行くべし」と言へば、緑なる道喪古を邸に残して、真の道喪古を追い出しにけり。
道喪古、つひに捨てられたりけるよ。
【土船 澄】対談を終えて
こんにちは。土船です。
2週間ほど前、貴族協会の支部長との対談がありました。
指定された場所は、某ホテルの広間。(広間といってもそこまでの広さではない)
緊張はしつつも、ウィキペディアで調べてフォアグラについての一通りの知識を得たつもりだった私には「まあ何とかなるのではなかろうか」という甘い考えも心の奥底にありました。
私は、対談の場で自分がさもフォアグラを知りし者であるかのように振る舞っているイメージトレーニングをしながら会場に向かいました。
広間の入口に着くと、そこには「世界貴族協会日本支部長•田中米太郎氏 フォアグラエッセイコンテスト佳作受賞者•土船澄氏 対談」と手書きで書かれたパネルがでかでかと掲げられており、ここで私は初めて会長の名前を知りました。
私は貴族協会の人に案内されて用意されたパイプ椅子に着いたのですが、その時まだ田中支部長は会場にはいませんでした。会場には、私の他にギャラリーが3人と、ビデオカメラを構えた関係者らしき男性、そして司会の男性の5人のみ。
そしてしばらく謎の無言の時間が経過したと思うと、司会の男性がいきなり
「田中米太郎支部長の入場です!」とばかでかい声で叫び、バーンバカバッカッバッカッバーンといった大げさな音楽とともにプシューッと勢いよく吹き上がるスモークの向こう側から田中米太郎支部長本人が登場しました。
田中支部長は満面の笑みでゆっくりと私の向かい側のパイプ椅子に座り、そして対談は始まりました。
→ 自分
→田中米太郎支部長
本日は田中米太郎支部長と、土船澄さんの御二方に話をお聞きしていきたいと思います。私、司会を務めさせて頂きますMC正造坐右衛門(しょうぞうざえもん)86歳でございます。
それでは、御二方のフォアグラへの想いを お聞きしていこうと思います。土船さんは、「フォアグラエッセイコンテスト」で佳作を受賞されたという事で、フォアグラへの愛も人一倍強く持っておられるのではないでしょうか。
えっと、はい…… 好きですね……(汗)
土船さん、わたしゃあねえ、あなたのエッセイを読んで、感激したんですよ。この鼻毛を長くしてずっとあなたに会えるのを楽しみに待っていたんですよ!
いやあ、あれほどフォアグラを愛されているお方がわたしの他にいなすったとは…! しかも土船さん、まだお若いのに!!
ありがとうございます……(汗)
土船さんは、どこのメーカーのフォアグラがお好きなのかね?
えっと……、るーじぇ…?(汗)
(※ウィキペディアの脚注の1番上のところにルージェ社がどうのと書いてあったから言ってみたが、勿論食べた事は無い)
土船さん!あなたはやはり話のわかる人でいなすったか!ルージェ社のフォアグラは私も愛しているのですよ。本場フランスの香り漂う逸品でございやすよねえあれは。
そうですよね…(汗)
土船さん、わたしゃああなたが気に入った!
それでは話を変えますが、土船さん。ヌーボー•グーラについてはどう思っているのかね?
ヌーボー•グーラ…?
(何それ!? そんなものはウィキペディアに載っていなかったし知らないけど、適当に美味しいとかいってめちゃめちゃ褒めておけば何とかなるはず…)
あれ、めちゃくちゃ美味しいですよね! 高級感があって、まさに貴族の食べ物って感じですよね。
………………
(※ここでしばらくの沈黙が流れ、場が凍りついていくのを感じた)
ど、土船さん……、ヌーボー•グーラが、美味しいと言うのかね?
あの、ガチョウや鴨でもなければそもそも鳥ですらない、
そこら辺のヌボタニシを捕まえて作った粗悪な代物を、フォアグラだと偽って売って炎上した、あのヌーボー•グーラを、
美味しいと、
言うのかね!?!?(怒)
(やばいやばい!!思いっきり地雷を踏んでしまった!!)
(あとヌボタニシって何!?)
(もう、冗談ですと言ってごまかすしかない!)
ヘヘヘ…冗談ですよ!
(※ここで再びしばらくの沈黙が流れ、場がさらに凍りついていくのを感じた)
冗談!?
こういう場面で冗談かね!どういう思考で今冗談を土船さんが言おうとしたのか私には全く分かりませんがねえ!!(怒)
(※急に怒りだしてめちゃめちゃ怖かった)
も、申し訳ございませんでした!
(泣きそう)
(※ここで5分間ほどの地獄のような静寂)
(※静寂が終わったかと思うとここで急に支部長が怖いほどの満面の笑顔に戻る)
じゃ、気を取り直して、他のことを聞いてみるとしましょうかな!
土船さん、プリケッティーについては、どう思うかね?
(うわ…何この人。怖すぎる……)
(しかもまた知らないワード来た…。今度は何て答えたらいいかな…次地雷踏んだらおしまいだから、なるべく色んな解釈ができるような事を言っておきたい!)
(誤魔化さず正直に「知らないです」と言う事が1番の得策なのでは?と思う方もいると思うが、田中支部長の地雷のポイントが分からなすぎて「知らないです」と言ったとしても怒られそうな気がするのと、極度の緊張で私は正直に言おうとは考えられなかった)
プリケッティーですか。あれはすごい味ですよね。(汗)
すごい味!?
土船さん、まさか、プリケッティーを食べた事があるのかね!?!?
えっ……(やば)
………………………
千年に一度、天から地上に降臨する女神プリケットが地上に一つだけ残して去ってゆくと伝えられている幻の金の卵から生まれた鳥で作ったプリケッティーというフォアグラがあるとかないとかと言われている、
あの、伝説上のフォアグラを、食べた事があると、
言うのかね!?!?(驚)
(うわやば!! 絶対嘘ってバレた!)
………………
………………(汗)
なんと…!
こんな所にプリケットを食べたことのある選ばれしお方がいなすったとは…!!
いやあ恐れ入りましたよこれは土船さん!!
(あれ…怒ってない!?)
キエーーーーーーーッ!!キエーーッ!キエーーッ!
??????
キエーーーーーッケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ(気絶)
??????
終わりです。
え?
ご退場下さい。
え?
いいから帰りたまえ!
はい…
このようにして対談は突如終了し、私は広間から退場しました。
今こうして対談のことを振り返ってみると、私は本当に変な組織に首を突っ込んでしまったのだなあとつくづく思います。
司会者も変だったし、田中支部長の怒るポイントと機嫌が良くなるポイントがよく分からないのとか、急に奇声を上げた事とかが怖かったです。
(あと貴族のくせに椅子がパイプ椅子だったのも意味が分からなかったです)
ちなみに対談の中で田中支部長が言っていた「ヌボタニシ」というものが何なのかについては後から検索して調べてみたのですが、よく分からないサイトの変なインタビュー記事しか出てこず、結局「タニシではない」ということ以外はほとんど何も分かりませんでした。(タニシじゃないのかい!)
貴族協会とか名乗っているけど貴族って絶対こんなのじゃないと思うし、最初からフォアグラなんて興味も食べたこともないし(それなのに応募した私が悪いけど)、正直もう二度とこの組織とは関わりたくありません。
今回の対談が、私が貴族協会にお目にかかる最後の機会であった事を願います。
それではさようなら。